「王位戦第2局は逆転でした。豊島さんが藤井君を相手に、ああいう負け方をしたのは初めてなんですよ」
「ああいう逆転負けっていうのは、豊島さんはまず他の棋士には食らわないんですよ。トップ棋士は、ずっと優勢の将棋は、一瞬危なくても、最後はたいがい勝つ。だから豊島さんは『これを負けるのかな』という感じはあったと思います」
「なんなんだろう? 相掛かり(互いに相手陣に向かってまず飛車先から攻めかかる戦法)はもう終わったのかな?(笑)」
「具体的な手順はわかんないけど、角換わりは突き詰めると後手よしっていう見解が藤井君にはあったはず。それが最近変わって、先手もやれるって思い直したんじゃないですか。あと豊島-藤井戦って、番勝負二つ並行でずっと続くじゃないですか。だったら角換わりもまぜていかないと、やる戦法がなくなるのかもしれない」
「第3局はわりとよくある定跡なんですけど、それをやるっていうのはお互いの見解が一致してないってことなんですよね。豊島さんは後手が十分、藤井君は先手の利があると思ってやってる。見解にズレがあるんです。最近は藤井君の序盤研究と、みんなの研究が合わないことが多い。だから藤井君だけ使っているソフトが違うのかもしれない」
「藤井君が1日目夕方、相手に決断を迫ったのがうまかった。封じ手では、豊島さんは銀を出る手が最善だったんですけど、それを封じ手前の読みで決断できるかっていったら大変なんです。銀を出る手は怖い。勝ちかもしれないですけど、逆に負けかもしれないから。豊島さんの封じ手は銀を出るのではなく、重ねて打つ手でした。それだと少なくとも不利にはならない。だけど実際には緩手なんです。私の場合ですけど、後手だからちょっと謙虚に考えて、1日目は互角で終えれば十分という手を選ぶことはあります」
「王位戦より時間が短いので、最後にスプリント勝負になったときのことを豊島さんは考えると思います。僕は棋聖戦で、チェスクロじゃないけど4時間だった。最後は残り1時間を切ってスプリント勝負になるんですけど、それは早指し棋戦にも強い藤井君の得意分野なんです。でも残り1時間を切る前にカタをつけるっていうのは難易度が高すぎて私には無理でした(笑)」