日本語から「い」が消えていっている、と言ったら、あなたは驚くでしょうか。たとえば「いやだ」が「やだ」とか、「うまい」が「うまっ」というふうに音が脱落したり、語尾が変化したりしています。思い当たりますよね。それではなぜ、このような現象が起こるのでしょうか? 実は発音の“省エネ化”からなのです。
口の中で舌を前上方に引き上げ、口角を左右に引き、喉頭を少し締めた状態で声を発する母音――。文字で書くと、なんだか難しくなりますが、「い」の発音の仕方はこのようになります。
「い」の発音は前舌母音といい、舌の位置が他の母音よりずっと高く、声帯のある喉頭をキュッと引き締めるエネルギーの要る発音法なのです。ですから、この“面倒くさい”(これも「メンドくさっ」と「い」が落ちますね)発音をより楽な方、楽な方へと変えていってしまったのです。
「やばい」が「やべー」や「やば」と変化したり、「難しい」が「ムズい」から「ムズッ」へと変わったりしている例があることに気がつきます。これも省エネ化の表れなのです。