「右エンジンが故障したとすると、左エンジンは右へのヨーイング(片揺れ)を起こし、進路を右寄りに変えようとします」と、ミシガン大学のアトキンスは説明する。その可能性を見越して、双発ジェット機メーカーはラダー(方向陀)とエルロン(補助翼:機体のローリングを制御する翼の先端近くに搭載されたヒンジ付きの可動翼)に、必要に応じてヨーイングを打ち消す上で十分な大きさと反応性をもたせている。
「推力ヴェクトルがずれたとしても、そのまま推力ヴェクトルが機体の中心方向にかかることはなくなりました。反トルクを効果的に提供することで、航空機をまっすぐ速度ヴェクトルの方向に飛ばし、制御することができるのです」
航空機の動翼の場合、機体が必ずしも進行方向を向いているとは限らない。また、ラダーとエルロンは反トルクを生み出す際に周囲の空気を利用するので、抗力も大きくなる。抗力が大きいほど燃料消費量は増え、正常に機能している片方のエンジンにますます負担がかかる。
ヨーイングに適切に対応しないことで発生しうる影響は、単に飛行コースから外れることにとどまらない。「いちばん大きなリスクは、飛行機が横揺れや縦揺れを起こし、制御不可能になってしまうことです」と、メダーは指摘する。「そうなると、操縦不能になってしまいます」