ペイパルを創業したティールは、ライバルが追随してくる前にユーザー数で圧倒してデファクト・スタンダードを握ることが成功のカギだとわかっていた。そのためクレジットカードを登録した新規ユーザーに一律10ドルをキャッシュバックするばかりか、既存ユーザーが「お友だち紹介」するとさらに10ドルをプレゼントする大型キャンペーンを始めたのだが、それでも振り落とせないライバルがいた。イーロン・マスクという南アフリカ出身の若者が創業したXドットコムがペイパルにきわめてよく似た送金サービスを開発し、倍の20ドルのボーナスをつけてユーザーを急増させていたのだ。
ここでのティールの決断は、いまやシリコンバレーの伝説となっている。彼は互いに消耗するだけの競争を続けるのではなく、マスクと手を結びWIN-WINの関係になることを選んだのだ。そのためにはCEOを外部から招聘し、マスクに新会社の会長の座を明け渡すこともいとわなかった。
その後、新会社の経営が混乱したことでマスクは会長の座を解任され、後任にティールが就くことになるが、それでも2人の「友情」は壊れなかった(ティールはマスクのスペースXの有力投資家の一人だ)。