マラッカ・ジレンマと商船保護
中国はアメリカと同盟を組んでいません。経済的な相互依存は深まっているとはいえ、朝鮮半島や台湾海峡の情勢によっては、アメリカとの間で局地的に一戦まじえる恐れは依然としてあります。
そんな中で、中国は経済発展し、貿易量が増大すると、アメリカが事実上保護しているマラッカ海峡により深く依存することになります。すると自国の生命線をアメリカに抑えられたも同然です。そのことが、中国の外交上の自主性に制限を加えます。経済発展はしたいが、そのためにマラッカ海峡を抑えるアメリカに依存するのは面白くない。胡錦濤はこれを「マラッカ・ジレンマ」と呼びました。
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これをアメリカから見れば、世界大で通商路の保護を行うことで、自国の貿易を安全におこなうのみならず、世界中の多くの国に恩恵と影響力を与えられるということです。かつての覇権国であった大英帝国も、世界の海に海軍ステーションを設け、商船を保護していました。このあたりは名著「アジアの海の大英帝国―19世紀海洋支配の構図 」に詳しいです。イギリスのエリザベス一世に仕えたウォルター・ローリー卿が言ったように「海を制するものは貿易を制し、貿易を制するものは世界の富を制し、ひいては世界をも制する」というわけです。
現代においても戦時に他国の通商路を破壊し、あるいは自国のそれを守れるということが、平時におけるその国の発言力と外交の自主性に関わってくるのです。特にアメリカとの関係に問題を抱えているか、将来抱えるかもしれない国にとって、これは深刻な問題です。そこでイランは戦争になった時にホルムズ海峡を封鎖できるよう潜水艇を備え、中国はマラッカ・ジレンマを軽減すべく、中央アジア経由でインド洋にでる輸送ルートの開発に資金を出したりしています。避け難い2つの運動
特に中国は経済発展のためにますます海洋通商路への依存を深めるので、できるだけ自前でこれを防衛できるよう海軍を増強します。中国が侵略的だとか、帝国主義的だから軍備を増強しているのではなく、単に経済が発展しているから、経済発展を支える商船隊を保護するのに海軍が必要なのです。もっとも、他にも先日の記事で書いたように近海での海洋権益確保という目的もあり、権益確保のために中国がかなり軍事力に頼っているのはまた別の問題としてあります。とはいえ、大筋としては江畑氏が論じていらっしゃる通り、経済発展が海軍増強を導いていると考えられます。
よって、中国が空母保有からさらに海軍を増強するのは、必然とはいわないまでも、自然なことです。どの国でも、中国と同じ立場に置かれたなら、程度の差はあれ似たような軍拡を行うでしょう。また、日本をはじめとするアジア太平洋諸国がそれを脅威に感じ、軍事的に対抗するのも、これまた当然の反応です。
どちらも、それぞれの立場において、当然の行動をとっているに過ぎません。お互い、アナーキーな国際社会に生きる、恐怖と欲望の奴隷なのです。だから、どちらが悪いとか、ムカつくとか、そういう問題ではありません。問題なのは、中国の海洋進出と、それへの周辺国の軍事的対抗、どちらもそれなりに正当なこの2つの行動が、果たして良き均衡点を見いだせるか、否かなのです。