人間は基本的に弱い動物ですから、Zさんのような認知の変更を行うことで、認知的不協和を解決する人は少なくありません。自分自身を振り返っても、決して非難はできないな、という読者の方は多いでしょう。しかし、こうした認知の変更は、以下に挙げるような心理的なバイアスと相まって、望ましくない行動をさらに強化する可能性が高いことは覚えておいてください。

・確認バイアス:自分の下した判断やとった行動を支持する情報だけを集めたがるバイアス。たとえば、A大学とB大学に合格してA大学に入学した場合、いかにA大学が良い大学か、B大学が良くない大学か、という情報ばかりに反応するようになる心理的傾向

・反確認バイアス:確認バイアスとは逆に、自分の下した判断やとった行動にとって好ましくない情報を無視する傾向。上記の例で言えば、「B大学出身者の方が生涯賃金が多い」という情報があったとしても、それをことさら無視するか、「まあ、B大学はもともと金持ちの子息が多いからな」あるいは「B大学は卒業後のネットワーキングだけは熱心だからな」といったように、自分を納得させるような理屈(時には屁理屈)をつけたがる

・合同バイアス:上記の例で言えば、「A大学の方が良い」という仮説についてはそれを支持する情報を集めようとするものの、「B大学の方が良い」という仮説については、そのような仮説すら立てようとしない傾向

・現状維持バイアス:人間は慣れ親しんだ状態や行動パターンを好み、それらを変えることに抵抗感を示すことが多い。ケースの例で言えば、「ビールをたくさん飲む」という行動が現在の行動であり、大きな不都合がない限り、その行動をいつまでもとってしまいがちになる

・バンドワゴン効果:周りにいる人々の考え方に自分もいつの間にか染まってしまう現象。俗にいう、「朱に交われば赤くなる」の状況。もし、Zさんの友人がお酒好きの人ばかりであれば、「酒なくして何の人生か」といった考え方に染まりやすくなる。むしろ、そうした友人を求めて積極的に交わろうとするとも言える

 つまり、認知的不協和の状況に置かれること自体は別に悪いことではないのですが、そこでいったん誤った意思決定をしてしまうと、その意思決定は様々なバイアスによって強化され、なかなか修正がきかなくなってしまうのです。これは、個人レベルだけではなく、集団レベルでも起きます。集団の方が、惰性がつきやすい分、厄介だとも言えるでしょう。

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