信心深いその男は、昔から法王と会って話がしたいと願っていた。
ついにサン・ピエトロ寺院へ行く機会を得た彼は、
長年の夢を果たそうと、一番いい一張羅を着て、群集の中にまぎれこんだ。
いい服を着ていれば、法王が自分を目に留めて話しかけてくれるのではないかと思ったのである。
しかし法王は、男に気づく気配もなく、ゆっくりと人々の前を歩いて来た。
そして、ひとりの乞食の前で立ち止まると、
慈悲深く穏やかな笑みを浮かべ、乞食に何事かを語りかけて、通り過ぎていったのである。
男はとても反省した。
いい服を着て法王に目を留めてもらおうなんて、
自分はなんてはしたない考えを持っていたのだろう。
貧しき者にこそ、神は慈悲の目を向けるのだ。
一計を案じた男は、先程の乞食に頼んで、
千ドルで自分の服と乞食の服とを交換してもらうことにした。
そして次の日、その乞食の服を着て再び群衆の中にまぎれこんだのである。
果たして、法王は男に近づいてきた。
そして、男の耳に口を寄せると、優しく穏やかな声で、こうおっしゃった。
「昨日、目障りだから消え失せろと言ったはずだぞ」