ところが最近になり、九州大学の中嶋直敏教授のグループが、実に意外なものにナノチューブが溶けることを報告して話題を集めています(Chem.
Lett.36 (2007) , 1140
)。研究室にあるあらゆる溶媒を受け付けないナノチューブを溶かしてしまう「魔法の液体」は、実はコンビニで150円も出せば容易に入手できます。その液
体の名はなんとサントリーの緑茶「伊右衛門 濃いめ」です。なんでまた伊右衛門茶にナノチューブが溶けるのか――。その秘密は緑茶の主要成分であるカテキン類にあるようです。一般に、芳香環(ベン
ゼン環など、いわゆる「亀の甲」)を持つ化合物同士は表面のπ電子によって引きつけ合い、積み重なるように寄り集まる性質があります(πスタッキング)。
カテキン類は多数の芳香環を持っていますのでナノチューブ表面に引きつけられて集まりますが、一方でたくさんの水酸基をも保持しているため水ともうまくな
じみます。要するにナノチューブと水の両方に似た部分構造を持つカテキンがうまく両者の仲立ちをし、本来犬猿の仲である両者をなじませてしまうというのが
伊右衛門茶の秘密であるようです。