ウェイトレスの記憶能力については次のような驚くべき証言が紹介されている。
大部分のウェイトレスの主張によると、非常に忙しくて覚えなければならないというプレッシャーが大きいほど、彼女
たちの記憶力はさらに良くなったという。それをあるウェイトレスは「そのとき私は流れの中にいた」と表現し、何人かのウェイトレスはほんとうに信じられな
い話をいくつか披露してくれた。あるウェイトレスは25人のパーティの給仕をしたことを覚えていたが、客の全員が酒場代と食事代を別々につけにした時に、
彼女は何も書き留めずに50の勘定書全てを用意できたのである。経験がたった3年に過ぎない別のウェイトレスは、スケジュール的には働く予定だった2人の
同僚(ウェイトレス)が「病気」で休むと電話してきた大みそか当日の仕事について語っていた。その日に彼女は、150人の客を受け持ったのである。そ
の夜のおわりには、すべてのお客様が何を飲んでいるか、私は知っていました。ちょうど私はカウンターのそばに立っていて、手が上がるのを待ち、バーテン
ダーにオーダーを渡していたのでしょう。それから飲物をテーブルに運んだのだと思います。どのようにしてそれをやり遂げたのか、本当に私にはわかりませ
ん。ウェイトレスによっては「客の飲物のように見え始める」という。これは注文した客の外観と飲物を記憶として強く結びつけることに由来していると考え
られる。また、慣れ親しんだ仕事場では場所と結びつけて記憶することもなされているに違いない。後年の研究では、オーダー後に客が場所を変えた場合にのみ
ミスが増加する実験結果が得られており*2、
場所が重要な役割を担っていることは確かなようだ。ウェイトレスは時に客の注文を推測しようとし、仮に予想と異なっていた場合には集中して注文を聞く(予
想通りの場合には手を抜ける)。メリハリをつけ、客の外観や場所と結びつけて記憶することが、この驚異的な記憶能力を支えているようだ。