トロント大学医学部のドナルド・リーデルメイヤーの実験。結腸検査を受ける682人の患者を2つのグループに分け、最初のグループには通常の結腸検査を受けさせる。そして第二のグループには、通常の結腸検査を受けた後に、結腸鏡の先端を何分かだけ直腸の中に残しておく(医学的には意味のない処置)。そうして、両グループの患者にこの検査の苦痛についての評価を聞く。その結果、第二のグループの患者の苦痛は、通常の検査を受けたグループよりも小さいことが分かり、検査後の苦痛についての総合的評価を10%下げた。第一のグループの患者の32% は、その後も同じ検査を受けたが、第二のグループの患者の43% が再検査を受けた。
アメリカで、自分の子供が拳銃の置いてある友人の家に遊びに行くのと、庭にプールのある友人の家に遊びに行くのでは、親としてどちらが安心するか?アメリカでは600万の家庭がプールを持っている。一方で、銃は全米で2億丁ある。しかし、毎年、家庭のプールで溺死する10歳以下の子供は約550人。一方で、同じ年代の子供で銃で死ぬのは毎年約180人である。思い込みが強い影響を示す一例である。
17世紀の有名な天文学者であるヨハネス・ケプラーは、デンマークの天文学者のティコ・ブラーエから、非常に精密な火星の観察記録を受け取った。そして、ケプラーは火星の軌道を13日程度で解いてみせると名言した。その後、ケプラーは何千枚の紙を費やすほどに代数計算を行ったが、実際に火星の軌道を解析できたのは、何と13年後であった。ケプラーは火星の軌道は円形であるという考えにこだわっていたので、実際には火星軌道はだ円であることを受け入れるのに時間がかかったのである。
人間は自分にとって都合の良い情報は積極的に取り入れ、都合の悪い情報は棚上げしてしまう傾向がある。例えば、タバコを吸う人が喫煙と肺がんの関係を医者から聞いても、余り重視しない。その一方で、「赤ワインは健康によい」という情報は、自分にとって都合がいいから、この情報が広まるのである。
シカゴ大学の経済学者であるリチャード・セイラーは、学生達に次の質問をした。「あなたは携帯電話を持っていますか?クラスの中で何%が携帯電話を持っていると思いますか?」この結果、自分で携帯を持っている学生は、クラスの65%が携帯を持っていると答えた。しかし、自分で携帯を持っていない学生は、持っているのは40%であると答えた。正解は50%だった。つまり、人間は「他人も自分と同じように考えると思う」というバイアスを持っている。社会心理学者はこの傾向をフォールス・コンセンサス効果と呼ぶ。つまり、人はある状況における自分の行動や考えは一般的なものであり、適切であるとみなしているので、他者も普通なら同じ行動をすると考えることである。