「エコノミスト」がユーザーに次のような広告を示した。「エコノミスト」誌の購読に関する予約広告で、ウェブ版年間購読59ドル、印刷版年間購読125ドル、印刷版とウェブ版の両方の年間購読125ドル、というものだ。
なんとも奇妙な広告だった。印刷版と、印刷版・ウェブ版両方年間購読とが同じ125ドルになっている。これでは誰だって、印刷版だけの購読などしっこない。なぜこんなことをしたのか。
そこでダン・アリエリーは、まずは100人の学生ならこれらの3択の何を選択するかをテストしてみた。結果は、ウェブ版16人、印刷版0人、両方84人だった。では、誰も選ばなかった印刷版を選択肢から外したらどうなるか。また学生にテストしてみると、今度はウェブ版68人、両方32人になった。安いほうに流れたのだ。顧客売上の総計からすると、誰も選ばない印刷版を入れておいた選択肢のほうが売上が大きいのである。
これは印刷版125ドルという「おとり」が選択肢に入ったせいだった。選択者たちは、最初に印刷版125ドルと両方版125ドルを見て、ついつい両方版が価値が高いというアンカーリングをしてしまったのだ。そこに価値の相対性の錨を降ろしてしまったのだ。そのため、つまりは「予想どおりの不合理」がおこったのだ。まんまと「エコノミスト」は印刷版とウェブ版の両方を選ぶ顧客のほうを、多数獲得できたらしい。