目に見えない家族の絆における違いが、東アジア諸国と日本のあいだに存在する。こんな寓話から始めよう。
戦争が起こり、家族4人が命からがら川岸まで逃れてきたとする。そこには、舟が4艘あって、そこまで逃れてきた人が三々五々、それらの舟に乗る。さて、どうする。
こんな問いを、中国の商店街調査に行ったとき、当地で成功しているレストランチェーンの経営者から受けた。そして、その経営者は、「一つの舟に家族全員が乗るのは、そもそも理に反している」と言う。なぜなら、その舟に万一のことがあれば、家族全員が死んでしまう。一方、家族4人が1人ずつ分かれて舟に乗ると、どれか一つの舟がやられてその家族が亡くなっても、他の家族は生き延びる。「われわれなら、4つの舟に4人分かれて乗る」という。
その話の後に、子供たちを海外の異なる国に留学させる、他国で働かせるという話が出てきた。子供たちを、自分たちの手元、つまり中国に置かず、他国に遣るというのは、そうした考え(リスク分散)によるのだという(中国は一人っ子政策のはずなのに、不思議な話だが)。
リスク分散は理解できるし、家族存続の面で考えると理に適う。だが、私たちが、そうなったとき、そうするだろうか。そうはならない。たぶん家族全員、同じ舟に乗る。
「死ぬも生きるも家族一緒」という気持ちは、私たち日本人の感覚に合う。そう思うと、「家族が一人でも生き延びれば」という考えは、中国的に思える。そのオーナーは実際、その寓話を用いて中国人の考え方を話されたのだ。
中国の家族と日本の家族の違いを、こう割り切って理解してよいかどうか難しいが、実際の両国における商業活動を見ていると、そんな違いが根本のところにありそうに思えてくる。