コロナウイルスには、ヒトに日常的に感染する4種類(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)があることが知られている。これらは、一般的な風邪の10〜15パーセント(流行期は35パーセント)を占めるとされるが、ほとんどの場合は症状が軽く、重症化する患者はまれである。
風邪のコロナウイルスに感染した経験をT細胞が記憶しており、新型コロナウイルスに対しても反応することが報告されている。ある病原体に対して起きる免疫反応が、別の似た病原体でも起こりうる「交差反応」と呼ばれる現象だ。
SARS-CoV-2のパンデミックが始まる前の、2015年から18年の間に採取された過去の保存血液サンプルを新型コロナウイルスに晒し、T細胞反応を調べた。すると、SARS-CoV-2に感染したことのない血液サンプルのなんと約50パーセントから、この交差反応性が検出されたのだ。
風邪のコロナウイルス「HCoV-OC43」と「HCoV-NL63」に対する抗体反応を調べたところ、程度の差はあれど、すべてのドナーにIgG抗体の陽性を確認している。つまり、新型コロナウイルスに反応を示したこれらのT細胞は、別のコロナウイルスによる過去の感染によって生成された可能性が高いと考えられている。これらのウイルスのたんぱく質は、SARS-CoV-2のものに似ているのだ。
SARS-CoV-2に感染していない被験者で、この交差反応性を確認している。彼らは68人の未感染者の血液を分析したところ、34パーセントの人たちがSARS-CoV-2を認識する「ヘルパーT細胞」を保持していたことがわかった。
風邪ウイルスとの交差反応性は、世界人口の大部分がSARS-CoV-2に対してある程度の免疫をすでにもっていることを示唆している。それと同時に、地域によって感染率に違いがある理由もまた説明できるかもしれない。