・車を運転する際のクラッチとギアの順番のように、いわゆる体で覚える「手続き的記憶」と呼ばれる部分に関しては、ほとんど加齢の影響がないことが知られている。また、「アメリカの首都はワシントン」「水は酸素と水素からできている」のような、普遍的な事実に関する記憶(これは「意味記憶」と呼ばれている)も、やはり年齢の影響を受けにくい。記憶が最も影響を受けるのは「エピソード記憶」と呼ばれる種類の記憶なのである。エピソード記憶とは、自分自身が経験したことについての記憶である。
・高齢者は一般に、「何」に関する情報は比較的よく覚えているが、「どこ」「いつ」といった情報を憶えているのが不得意のようである。たとえば、作り話を聞かせて、それを覚えているように要求する実験があった。この実験では話自体を高齢者は比較的よく覚えていた。ところが、その話が男の声で語られたか、女の声で語られたかに関して、彼らの記憶は劣っていた。「どこ」や「いつ」は経験に付随するエピソード記憶の重要な部分であるが、その記憶が劣るのはエピソード記憶の低下と関連があるのかもしれない。