・極度の逆境におかれた生物が生存資源を徹底的に動員することを考えれば、強制収容所で自殺がほとんどなかったという事実が理解しやすくなる。毎日24時間、生物としての生存の最低条件を満たすために死に物狂いで闘っているときには、抑うつなどという「贅沢」にひたる余裕はない。収容者たちは解放されたあとようやく一息ついて、収容所で耐えた恐怖や恥辱を思い返した。そして多くの人が慢性的なうつ状態におちいった。逆説的だが、かなりの数の生存者が自殺に傾いたのは、この時点からだった。

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