帰りの飛行機に乗り込もうとした矢先に電話が鳴った。母が入所している生活支援施設からだった。

 その電話番号を目にするといつも胃がきゅっとしたが、たいていは何事もなく、すぐに安心できた。だが、その時は違った。いつもなら「お母様は元気にお過ごしです。今日はお知らせがございまして……」と始まるはずが、今回は看護師にこう告げられた。「お母様が食事を食べなくなりました」

 母の15年越しのアルツハイマー病との闘いと人生は、終わりに近づいていた。かつて英語を教えていた母の語彙は、いまや一桁台になっていた。母のクオリティ・オブ・ライフが低下し続けていたのは知っていたが、それでもなお、死が間近に迫っているという知らせは腹にずしんときた。

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