「蓼(タデ)食う虫も好き好き」。苦味のあるタデを食べる虫がいるように、人の好みもざまざまだ…という意味のことわざがある。
このことわざに引き合いに出されたタデとは「ヤナギタデ」と呼ばれる品種。茎や葉に強い苦味がある。ことわざから察するに「タデ」とは、とても不味い食べ物のように想像してしまう。しかし世の中には、世界中で好んで食べられているタデの仲間もある。そう、10月頃から新物が出回って、愛好者の心をときめきさせる「そば」がそれだ。
そばは植物学上、タデ目タデ科ソバ属ソバに分類される。つまり、そばとはタデ科に属する一年草となる。漢字では「蕎麦」と書くのが一般的だが、この他にも烏麦、花蕎、華麦、花麦、落麦、甜蕎、伏麦、陪麦などと表記されてきた。「麦」という漢字が当てはめられていることから分かるように、小麦のように食べられるという意味合いが込められている。
そばを食べる文化は古く、縄文時代晩期の遺跡や長野県野尻湖底の土壌(5世紀半ば)からそばの花粉が見つかった。文献では奈良時代、722年に当時の元正天皇が、飢饉に備えるために蘇我を栽培するように奨励したとされる詔(みことのり)が現存している。痩せた土地でも育つそばは、古くから日本人の食生活を支えてきたことが伺える。