地下鉄車内で乗客が出火後の状況を写した写真(左)がありました。煙が充満しつつある車内に乗客(10人くらい)が座席で押し黙って座っているという不思議な写真でした。
それを見てまず「なぜ逃げようとしないのだろうか」と疑問に思いました。そして、これは「多数派同調バイアス」(majority synching
bias)と「正常性バイアス」(Normalcy bias)によって非常呪縛(Emergency spell)に支配されてしまった結果であろうと思い至りました。
バイアス(bias)というのは、心理学的には「偏見」「先入観」「思い込み」などと定義されています。「多数派同調バイアス」と「正常性バイアス」は認知バイアスの一部と認識されていますが、私は緊急時における「非常呪縛」(Emergency spell)とよんでいます。特に災害や事件などの非日常の状況が発生したときの「無思考状態」に陥ったときや、あれもこれもやらなければならないと思ったときに「優先すべき行動が混乱しわからなくなってしまう」ときなどに顕著に見られる現象です。煙が駅と車内に充満したとしたら、心の警報が鳴り響き、客観的には直ちに避難するなどの緊急行動をとると思うのが自然です。しかし、過去経験したことのない出来事が突然身の回りに出来したとき、その周囲に存在する多数の人の行動に左右されてしまうのです。それはその人が過去様々な局面で繰り返してきた行動パターンでもあるのです。どうして良いか分からない時、周囲の人と同じ行動を取ることで乗り越えてきた経験、つまり迷ったときは周囲の人の動きを探りながら同じ行動をとることが安全と考える「多数派同調バイアス」(集団同調性バイアス)という呪縛に支配されてしまうのです。