どういうことか、というと、老舗料理店にとって一番大切なことは、「味」を数百年にもわたって守り、維持することだというのです。昔、天才料理人たちが創作した味を、外に流出させず、何とか伝承し、守らなくてはなくてはならない。
そのためにもっとも大切なことは、確実な技術をもった料理人を育てることと、そういう料理人を外に出さないことなのだそうです。一般的に料理人は、いくつかのお店で修行をつみ、料理長になり、独立していくことが多いように思います。しかし、それをいかに防止するか、そのための戦略とは何か。
それは、ある人に伝承する技術の領域を極めて限定的、かつ、狭い範囲にしておくおき、長期雇用し、ジョブローテーションさせないことです。
そうすれば、たとえば、「焼き物の、ある技術」にはものすごく長けている料理人が生まれ、彼は数十年にわたって、その技を極めることができる。あるいは「蒸し物のある工程」についてのみ高い技術をもつ料理人を育て、彼をジョブローテーションさせず、長期にわたって、その工程を極めさせる。しかし、逆にいうと、このことは「極めて狭く限定的なことしかできない料理人」が生まれる。つまり、「ごくごく狭い領域の調理」はできても、ひとつの和食を「料理」することはできないのです。
もちろん、そういう料理人は外の店舗では使い物になりません。なぜなら、ごく狭い領域の「焼き物」しかできないからです。しかも、その老舗に特殊な技術しか、その料理人は持っていません。
もちろん、他店舗で、料理長になったりすることもできません。なぜなら、すべてを自分で組み立てることができないから。すなわち「料理」をつくることができないからです。「不自由に育てる」とは、そういうことです。
「自由になること」をコントロールするために、「他者の学習」を意図的に「組織化」する。