クイズ番組の参加者が「拷問者」になるという心理学的実験が、フランスのテレビで行われた。番組参加者たちは、男性が叫び出すまで電気ショックを与え、さらに死んだようにぐったりするまでくり返し電気ショックを与え続けた。

 このテレビ番組「死のゲーム(The Game of Death)」は、ごくふつうのクイズ番組と同じ体裁を整えている。歓声を上げる観客とグラマラスな有名女性司会者が、スタジオのきらびやかな照明の下に参加者を招待する。

 実はこの番組は、テレビが人びとをどれほど残虐にさせることができるかを調べる心理学の実験として行われたもの。クイズ挑戦者たちにはそのことが知らされず、実験の結果はナチス・ドイツの残虐さと思わず比較するようなものとなった。

 このドキュメンタリー番組を制作したクリストフ・ニック(Christophe Nick)氏は、番組司会者の加虐的な命令に「番組参加者の81%が従ったことに驚かされた」と述べた。番組は、17日に国営フランス2(France 2)チャンネルで放送される。

「(参加者は)命令に背く準備ができていなかった」とニック氏は解説する。「彼らはやりたくなかったし、権威者に止めるべきだと訴えようとした。けれどもそれができなかった」

■クイズ番組として募集

 ニック氏と心理学者らは、志願者80人を集め、新番組のパイロット版(試作版)への出演と説明。番組の内容は、相手「プレイヤー」に質問をぶつけ、相手が質問に正解できなかったときに最高460ボルトの電流を流して罰を与えるというものだった。

 実はこの相手方の男性は俳優で演技をしていたのだが、観客と参加者は知らされておらず、本物の電気ショックだと信じていた。参加者たちは気が進まない様子だったが、司会者の命令と、スタジオの観客の「処罰せよ!」の合唱に従った。相手方の男性が「放してくれ!」と叫び、また、死んだようにぐったりしても、参加者たちは電気ショックを加えるのを止めなかった。

 ニック氏によると、スタジオを立ち去ったのは80人のうち16人だけで、参加者の約80%は、最大460ボルトの電流で男性に電気ショックを与え続けたという。

■実験の意義は?

 番組後のインタビューで、ある参加者は、祖父母がナチスに迫害されたユダヤ人であるにもかかわらず、自分は番組で拷問行為を続けたと語った。ソフィー(Sophie)さんは、「少女のころからずっと、どうしてナチスはあんなことをしたんだろうと自問自答してきた。どうしてあんな命令に従えるのだろう?と。でもわたし自身がそんな命令に従っていた」と語った。

 また、別の参加者は「相手のことは心配だった」と述べた上で、「けれども同時に、番組を台無しにするのが怖かった」と語った。

 この実験は、米エール大(Yale University)で1960年代に行われた悪名高い実験をモデルに実施された。その実験では、従順な市民が虐殺に関与する過程の分析に、同様の手法が用いられている。

 この番組参加者の心理を操作するような参加者の取り扱いに対しては、懐疑的な意見も表明されている。集団虐殺や全体主義を研究する心理学者で歴史家のジャック・セメラン(Jacques Semelin)氏は、司会者の指示に従うことを義務づける契約書に参加者たちが署名させられていたことを指摘した。また、従順さだけでなく、観客やカメラなどさまざまな要素が影響していると述べた。

 一方、番組制作者のねらいは、テレビによる人心操作の威力を指摘することだったという。ニック氏は、「テレビが権力を乱用することを選んでしまったら、テレビは誰に対してもなんだってすることができる。絶対的に恐ろしい権力なんだ」と語った。

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