Q:料理の「からあげ」は、字幕スーパーでは「から揚げ」か「空揚げ」と書くことになっています。なぜ「唐揚げ」と書いてはいけないのでしょうか。

A:この食べものが中国の「唐の国」とは直接の関係がないからというのが理由です。しかし、現代の実態としては一般に「唐揚げ」と書かれることがたいへん多く、この基準もそろそろ見直さなければならないかもしれません。

解説

まず漢字表記に限って言うと、日本の史料には「空揚(げ)」よりも「唐揚(げ)」のほうが先に出現していると言われています(『日本料理由来事典』同朋舎出版)。江戸時代に「普茶料理」(精進料理の一種)というものが中国から伝えられましたが、この当時日本で出された料理書には「唐揚」というものが見られるそうです。ただし、これは「豆腐を小さく切り油で揚げ、さらに醤油と酒で煮たもの」で、この食べものが現代の「からあげ」と直接の関係があるのかどうか、よくわかりません。

その後明治以降になると、「虚揚」や「空揚」といった漢字表記の料理名(魚や肉を揚げたもの)が見られるようになります。これは、てんぷらなどとは違って衣を付けずに(あるいは食材から出る水分をおさえる程度の片栗粉などをまぶして)揚げたもので、「衣が『空(から)』」だからこのように書かれたのでしょう。この調理法は、現代の「からあげ」に通じます。

戦後のテレビ放送では、最初は「から揚げ」という書き方のみを認めていました。その後1973年に国で漢字の読み方を示したルールが新たに改定され(「当用漢字音訓表」)、そこで「空」という漢字を「そら」だけでなく「から」と読んでもよいことになった結果、「空揚げ」という書き方も認められるようになったのです。

しかし、ウェブ上でおこなったアンケートの結果では、「空揚げ」ではなく「唐揚げ」という書き方のほうを自然だと感じる人がたいへん多く、若い世代では特にその傾向が強いことがわかりました。現在の決まりは、時代に合わなくなってきているようです。

「空(から)~」ということばは、「空威張り・空くじ・空元気・空手形・空回り」のように、いい意味で使われることが少ないものです。こうしたイメージが、「空揚げ」という漢字表記を避けて「唐揚げ」に移行してゆく原動力になっているのかもしれません。

ことばに関する決まりは、時代によって、また人々の意識の変化によっても変わってきます。「からあげ」の書き方について正式に変更した際にはこのコーナーでもお伝えします。このことは、空(から)約束にはしないつもりです。

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