私は何気なく詰将棋を見せました。昔の将棋雑誌に掲載されていた詰将棋。若手棋士や奨励会員が何人挑戦しても解けません。詰みそうだけどどうしてもギリギリ詰まない。
「印刷ミスに違いない」と結論づけられた問題です。
詰まない詰将棋は、犯人がいない推理小説のようなもの。絶対に犯人(正解)にたどり着きません。私も藤井に雑談としてそれを話しただけです。解いてもらおうとしたわけでもありません。
それにも関わらず、藤井はそれを真剣に考えだします。(よし、解くぞ)というギアチェンジがこちらにも伝わってきました。ちなみに時刻は明け方近く。しかも深夜までの対局後です。
十数分は経ったでしょうか。疲れきった表情を見せて藤井は結論付けました。
「これは……詰みませんね」