本間龍(49歳)は1989年に博報堂に入社し、一貫して営業を担当。
転落のきっかけは得意先企業からパンフレット制作の仕事を受注したことからだった。
その費用1,000万円が、向こうの社長の「期末を超えた請求はびた一文払わない」という身勝手な主張により回収できなくなってしまったのだ。
そのとき上司に話していればよかったのに、異動させられるかもしれないという恐怖心から言い出せなかった。
転勤先の北陸から戻って子どもが小さかったこともあり、なんとか陰で穏便に処理したいと思っているとき、博報堂の上場が話題になり、株の上場話を元に金を借りようと思い立つ。
自分が持っている株が上場になれば2,000万円ほどになる。それで返済すればいいと、大学の後輩やサークルの仲間に持ちかけて1,000万円作るのだ。
それをきっかけに彼の評価は上がり、電通が独占的に扱っていた大手石油会社の仕事を博報堂に持ってくるなどの成果を上げる
そうなるとほかの部門のスタッフのケアをしなければならず、得意先などにも身銭を切ってご馳走することも多くなる。
そしてお決まりの女性関係。10歳年下の派遣で来ていた人妻と理無い仲になり、夜仕事が終わってからの食事、ホテル代、タクシー代と嵩んでくる。
そうして彼はまた、博報堂の未公開株の購入を友人知人に持ちかけ、集めた額は2,000万円を超えてしまうのである。
それでも出て行く金は増え続け詐取した分を注ぎ込んでも足りず、ついに闇金に手を出してしまう。40社から800万円くらい借り、返済が滞ると自宅にも会社にも「コラァ、本間を出せや!」と催促の電話が入る。とても仕事どころではなくなる。
そうして2005年2月に博報堂が上場されるが、持ち株は2,000万円どころか800万円にしかならなかった。
上場から1年近く経って、もはやだまし続けるのは限界と、一人に「未公開株の話、実はウソだったんだ」と泣きながら告白する。
妻にも打ち明けるが、総額を知った彼女は離婚を切り出す。借りていた二人から合計1,800万円で告訴され、会社を退職し、妻子が出ていった数日後に詐欺容疑で逮捕されるのである。
懲役2年の実刑判決が出て、未決勾留期間を差し引いた1年4カ月服役し、08年10月に出所する。
馬鹿な奴だというのは容易い。だがサラリーマンを経験した人間には、彼と自分との違いはほんの僅かなものだと知っている。
1,000万円の未回収金を上司に相談していれば、始末書か異動で済んだのだろう。それを隠すために儲け話をでっち上げて金を借り、それがうまくいったことで仕事もうまく回り出し、借金が雪だるまのように大きくなっていく。