ヒトの遺伝子編集に関心を抱く研究者たちは、イカがDNAではなくメッセンジャーRNAを編集している事実に注目している。CRISPRを応用した医学研究で行われるようなDNAコードの改変は、不可逆的だ。一方、使われなかったメッセンジャーRNAはすぐに分解されるので、治療によって導入された変異にもしエラーがあっても、患者の体内に生涯残ることはなく、やがて消滅する。
核内のDNAに恒久的な変化を加えることなく、細胞内で間違った情報を書き換えるこの能力は、医学研究にきわめて有用だ。
「ゲノムのどこかに有害な配列がある場合、例えば両親から受け継いだある箇所のヌクレオチドが、通常はG(グアニン)のところでA(アデニン)になっているようなときには、RNAを編集して元通りにできる可能性があります」グアニンとアデニンは、いずれもDNAおよびRNAの構成要素だ。
「RNA編集は、DNA編集よりずっと安全です。何かを間違っても、RNAは代謝され消滅します」