・世界のほとんどの人は、ミルクを飲むと体調が悪くなってしまうのだ。彼らは病気などではない。むしろ異常なのはミルクを平気で飲めるほうなのである。現生人類のなかで、ミルクの乳糖を分解する酵素、ラクターゼを分泌する人はごく一部だけだ。

・赤ん坊のときは誰でもミルクを飲んで消化している。ところがラクターゼ分泌に関わる遺伝子は、離乳期とともに働くのをやめてしまうのだ。それ以降はミルクと乳製品は消化できないものになり、無理に摂取すると最悪の場合生命にも関わることになる。

栄養不良に苦しむ貧しい人びとに、アメリカ政府がミルク支給を思いついたのも当然の成りゆきだ。ところが結果はまるで逆になった。ミルクを飲んだ黒人の子供たちは下痢を起こし、体重が減るいっぽうだった。科学者たちは首をひねりながら原因を探った。そして判明したのは、離乳後に新鮮なミルクを消化できる能力は、いわゆる白人人種であるコーカソイドと、サハラ砂漠南縁に暮らす一部の牧畜民にしかない事実だった。

・アフリカの飢饉を救うために粉乳を送ることが賢明かどうか、これでわかるだろう。そんな状況で大量のミルクを人びとに飲ませたら、事態は悪化するに決まっている。

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