・多くの植物は種子をばらまく仕掛けを持っている。そのため、狩猟採集民は、植物の種子を効果的に集めることができなかった。彼らが効率よく手に入れることができたのは、そうした仕掛けを持たない突然変異種だけであり、そうした個体を採集しつづけた結果、種子をばらまく仕掛けを持たない個体が栽培種の原種となったのである。
・栽培された小麦や大麦のうちで収穫可能であった個体は、一世代前と同様、穂先に実をつけたままでいる突然変異種の個体であった。こうして収穫に好都合な突然変異を起こした個体の実(種子)を幾世代にもわたって栽培しつづけることで、人間は自然淘汰のベクトルを完全に反転させてしまった──それまで種の存続に必要とされた遺伝子が死を招くものとなり、死を招くものが存続の遺伝子となったのである。