パナソニックは「監督官庁との協議により、電波を利用した外出先からの運転ON機能が、電気用品安全法の技術基準の適合に課題があると判断、同基準へ確実に適合するため、仕様を変更した」のだという。その技術基準には「遠隔操作機構を有するものにあつては、器体スイッチ又はコントローラーの操作以外によつては、電源回路の閉路を行えないものであること」と書かれている。
「閉路」の規制とはリモコン以外の機材で外部から電源を遮断できないようにするもので、今回のような家電のコントロールを想定したものではない。この技術基準には詳細な規制が記述されているが、「危険が生ずるおそれのないものにあっては、この限りでない」という但し書きがついている。パナソニックは、エアコンのスイッチには危険はないと考えたらしい。
しかし業界向けに発表したあと、経産省から「くわしい話を聞かせてほしい」という電話があった。パナソニックが説明したところ、技術基準で「危険が生ずるおそれのないもの」として例示された中にエアコンがなかったため、「技術基準を改正するまで見送る」という結論になったのだという。
ここには日本の官民関係の典型的な問題点が見られる。役所は「何を許可するか」についてのポジティブリストを詳細に決め、そこに書いてないことは禁止するのだ。本来、何が合法で何が違法かを決めるのは裁判所だが、日本では官庁がくわしい省令や政令をつくって解釈も決めてしまう。
業者も役所の許可してない製品をつくって後から違法だということになると大変なので、事前に役所に相談し、前例のないものはつくらない。このような過剰コンプライアンスが、新しい発想を萎縮させている。いちいち役所にお伺いを立てていては、斬新な製品ができるはずがない。「イノベーションを促進する」と言っている経産省が、イノベーションを殺しているのだ。
英米では、法律が明文で禁じていないことは合法である。役所と民間の意見が違う場合には、裁判で決着をつける。議会で承認されていない政令とか省令などというものには、法的正統性はない。裁判に勝てるかどうかはきわどい闘いだが、YouTubeはこうした法的リスクを負うことによって、他のメディアを出し抜いた。