骨董屋「瀬津」の主人の話。
主人が若い頃、素晴らしい茶碗を見つけた。どうしてもほしかったので、六〇〇〇円までは出そうと決めた。当時としては大金です。
この茶碗をなんとか三〇〇〇円で落とすことができた。狂喜していると、先輩の商売人がやってきて言う。
「アホ。あれは、かつて三〇〇円を出たことがない」
実際、ある金持ちのところに茶碗を納めたものの、数日後に返されてしまった。
主人はくやしくて眠れない。やがて夜は明けて、茫然とスズメの鳴き声を聞いていると、ある考えが浮かんだ。
「茶碗はいいのだ。俺という人間に信用がないだけだ」と。