俺が心の底から東大出には敵わないと思った話をする。
うちの職場に東大出の奴がいるんだけど、そんなに激しく勉強出来るふうにも見えない。
俺は最初、なんだ、東大出って俺と変わんないじゃん、とか漠然と思ってた。ところが、そいつを含めて職場のメンバー数人で仕事帰りにおでんやで飲んだ時のことだ。
クルマの話になって、誰かが「ディファレンシャルギアっていまだに仕組みが解らん」
みたいなことを言った。別の誰かが「内輪差を吸収するんだよ」とか何とか言って
「そりゃ知ってるけど、内部がどうなってるのかが解らないんだよ」みたいな話になった。聞いてくれ、その時だ。その東大出が、いきなりおでんの串の両端に丸いつくねを一個ずつ
刺して、それを二枚の丸い紙の皿で両側から挟んで、「このお皿が両輪だよ」と言って
おでんの串を皿の回転方向に回し始めた。なるほど、左右の皿は串の回転に合わせて
串と同じ方向に回転するが、片方の皿の回転を手で押さえて止めると、串の回転に加えて
つくねが回転するので、手で押さえたのと反対側の皿は二倍の速度で回転し始める。俺だって勉強すればディファレンシャルギアの原理を理解することは出来たと思う。
だけど、おでんやでテーブルの上にある物を使って即興でディファレンシャルギアを
組み立てて原理を説明する機転と着想は、俺には真似出来ない。東大出には敵わないと思った。
つくねはぐちゃぐちゃになりテーブルはタレだらけになった。