僕が抱く悲しみのひとつは、そういった状況だ。小説は以前ほど、必要とされていない。自分の表現ができればいいと考えている作家もいるけれど、僕はそうではない。僕は読まれたい。伝えたい。部数とは、読者の数でもある。言葉、思いが、伝わる相手の数だ。どんどん本が読まれなくなっていく現実は、ひとりの書き手として、とてもつらいことだった。そして、それが不可逆的な過程であることは、よくわかっていた。耐えられず、僕は毎日、ラムを一本あけた。毎日毎日、ラムの瓶が部屋に並んでいった。絶望という井戸は、どんなに覗き込んでも底が見えない。そして、身を乗り出しすぎれば、いつか落ちてしまう。