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2013.3.10 NHK杯テレビ将棋トーナメント準決勝 羽生善治NHK杯選手権者vs郷田真隆棋王戦 「神の86銀」

 序盤から、もう解析され尽くして廃れてしまったゴキゲン中飛車という戦法で挑む羽生善治NHK杯選手権者。実況してる人々も、もしや羽生は新しい打開策を編み出したのではと色めき立つ。

 が、その期待とは裏腹に序盤からずっと郷田棋王優勢のペースのまま対局は進む。実況でも、「つまらない将棋だな」などと言われ、解説の先崎学八段からも終始ダメ出しされ続ける。挙げ句の果てには、「アマチュアのような手ですね」などとあからさまに小馬鹿にされる始末。心なしか聞き手役の矢内理絵子さんの表情も暗い。

 全くいいとこないまま対局は進み終盤戦、とうとう自陣に迫られ素人目にもわかるほど絶体絶命の状況に追い込まる羽生善治。(画像1、2)

 さらに王手をかけられるが、その際に苦悶の表情を晒し狼狽する様子を隠そうともしない。(画像3)

 かろうじて歩1枚で受け、首の皮1枚繋ぐも敗色はより濃厚になるばかり。「羽生終ったな」「衰えすぎ」「NHK杯選手権者なんだからそんな情けない顔晒すなよ」そんな声で実況も埋め尽くされる。解説席もお通夜ムード。(画像4)

 だがここで1手空いた瞬間に羽生善治が龍切りから王手をかける。「はいはい、思い出王手」。全員がその程度にしか思ってなかった。そう、ここから3手先に進むまでは。そして羽生の69角に対して郷田棋王が77玉に交わした(画像5)この直後、羽生善治の神の一手「86銀」が炸裂した。

 一見すれば銀のただ捨てである。この手の凄さに最初に気づいたのは、まず解説役の元天才・先崎学。「え?」「いやこれは!」「え、まさか!?」「あ、72に桂打って!」「えー!これで詰むんだ!」から、「天才ですね!」「いやぁ~前々から天才だと思ってたけどやはり天才です!」「天才!いや凄い!」とさっきまでダメ出しをし続けてた状況から一転、もう「天才」と「凄い」だけを興奮気味に何度もまくし立てる。わずかに遅れて実況も騒然。この86銀に同歩だと即詰みなのは一目瞭然だが、同玉の場合に詰むかどうかはまだ実況民の半数が確証が持ててない。

 しかし確認すればするほど郷田棋王の玉は詰んでいることが明らかになる。駒もちょうど足りている。桂馬、馬、ポツンと残ってた歩1枚が奇跡的なバランスで噛み合っている。郷田棋王も信じられないといった体でがっくりうなだれる。通常プロの対局では詰みが確定した時点で投了するものなのだが郷田棋王、未だ信じられないといった様相で詰みの2手前まで力なく手を進め続ける。(画像6)

 そして対局場、解説大盤、実況が騒然とする中、羽生善治の歴史に残る大逆転劇で第62回NHK杯テレビ将棋トーナメント準決勝は幕を閉じた。(画像7)

 羽生善治42歳、未だ羽生マジックは健在であることを全国に知らしめた一局であった。

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