2タイプの油通しの、最も重要な違いは、温度と衣の有無。レンコンなど硬めの野菜は、高温(180~200℃)で衣なし。火入れで収縮して硬くなりやすい肉類は中低温(120~140℃)で、衣付きで、というのが基本である。
レンコンは大きめに乱切りし、中華鍋で約180℃に熱したたっぷりの大豆油の中へ。レンコンを油の中で約30秒ほど泳がせ、素早く油から引き上げる。これで油通しは完了。「油から上げるタイミングは、表面が軽く色付いて、薄い膜ができたような感じになればOK」
「油通しなしで普通に炒めたのでは、今回のレンコンぐらいのサイズの素材に均一かつ適切に火を入れることはまず無理です。油通しの油は、素材全体に均一に熱を入れるための媒介なんです。レンコン以外でも、中国料理では葉物以外の野菜の多くは油通しを施しています」
野菜類は高温、約190℃前後が基本。それ以上高温だと唐揚げになってしまい、低温だと油を吸ってベタついてしまう。
薄切りの鶏胸肉に卵白、水を加えて片栗粉でまとめて衣を付けてから油通しする。
「衣は収縮しやすい肉類にあたる熱を和らげる緩衝材の役割もあります」
この衣付きの油通しの注意点は、油を入れる前に鍋を空焼きしておくこと。しっかり鍋を熱することにより、衣が鍋にくっつく失敗がなくなる。油の温度は130℃前後の中低温。レンコンの時と同様、たっぷりの油で約1分、衣付きの鶏を泳がせる。これぐらいの低温では、いわゆる揚げ物を作る時のジュワーッという油の音は全くなく、鍋の音は静か。表面がわずかに色付いたところで素早く鶏を鍋から引き上げる。後は仕上げに再度、香糟、塩、砂糖、鶏スープとともに、ほんの一瞬、サッと鶏を炒めて完成である。
「鶏のふっくら感が凄い。肉をこんな風に仕上げようと思うと、フレンチなら鶏は1羽まるごとの塊を、低温で長時間ローストするしかない。ところが油通しだと、こんなに小さな切り身の肉が、短時間でたまらなくふんわりと仕上がるなんて。凄いですね。驚きました」
「料理名は炒めですが、鶏の火入れは8割以上、油通しで完了してるんです。炒めるのはほんの仕上げに、紹興酒や香糟の味と香りを絡めるための作業。よく油通しは下処理の作業と思われますが、実は油通しが主な火入れという料理も多いんです」