フランスの思想家、ジャック・エリュールは都市の起源を旧約聖書のなかに見いだしている。
エリュールは「都市を最初に建てた者は、カインであった」と述べた。カインとアベル。アダムとイヴの息子であり、人類最初の殺人の加害者であり被害者。兄のカインは弟のアベルを殺したが故に神に問いただされ、エデンの東に位置するとされるノドの地へと追放された。カインは彼の地に自分の場所をつくろうとする。このノドこそが、人類最初の都市なのだとエリュールは語る。殺人の罪によりカインが帰る場所を失ったこと、そして新たに帰る場所として打ち立てられた土地こそが、都市の起源となっていること。都市とは出発点や通過点ではなく、初めから終着点としてあった。より興味深いのは「ノド」という地名がヘブライ語で「放浪」を意味していることだろう。
「カインの町はこうして、流浪の地にうち建てられた。それは、人間がここでなら休らっていられると信じこむ場所である。人間にとって港であり、目的地である。ここで、ついに、人間は、さまよう者である自分の状況を忘れ去ることができ、エデンをさがし歩く境涯に投げ入れられながら、今や都市のおかげで、その放浪をついに終えることができるのだ」