視覚系は網膜の中にある感光性細胞が光子を取り込むことによって周囲の環境の状態を把握します。感光性細胞のひとつひとつが外の世界の情報、たとえば明るい電灯の存在などを記録しています。では、この外の世界に変化が起きて、電灯がチカチカと点滅しはじめたとしましょう。視覚系がこの変化を感知するには、感光性細胞が先ほどの情報を脳に送ったあとに、また新しい光子を取り込めるようになる前にいったんリチャージする必要があります。もしこのリチャージする速度が点滅の速度より遅かったら、点滅を感知できません。
この点滅する電灯を使って動物たちがどのように時間の流れを感知しているかを測定する方法は臨界融合(critical flicker fusion)と呼ばれています。臨界融合頻度とは、点滅している電灯の光がもはや点滅していないように見える境界値の頻度です。臨界融合頻度が高い動物なら点滅の速度が速くても光のちらつきを感知できますし、臨界融合頻度が低い動物には同じ光源が持続光にしか見えません。
人の臨界融合頻度は60Hzです。それよりも高い頻度で点滅している光、たとえば200Hz以上のAC用電球などは私たちには持続光にしか見えません。でも人間よりも高い臨界融合頻度を有する動物たちもいます。クロバエの仲間には300Hzの臨界融合頻度のものもいます。彼らにとって、この世界は1秒あたり300フレームで推移しています。もっと遅い生物もいて、ヒトデ(彼らにも目はあるんです)は1秒あたり1フレーム以下、深海魚の仲間は1秒あたり10フレーム以下です。これらの臨界融合頻度が低い生物には、身のまわりがまるで高速で移動している車の窓から見た景色のようにかすんで見えているでしょう。