最善の市場投入戦略は、直観に反していることが少なくない。使いたい人すべてを対象にしてアプリを展開する代わりに、徹底して的を絞るのだ。すなわち、1つの小さなコミュニティをターゲットにして、そこで広く受け入れられ、利用が促進され、クリティカルマスに到達したあとで、徐々に規模を拡大していくのである。
これは、いまやグローバルなソーシャル・ネットワークになったフェイスブックが、立ち上げの際に使った戦略である。フェイスブックはハーバード大学内のコミュニティとして始まり、大学から大学へと広がり、企業に広がったあと、クリティカルマスに到達してずいぶん経ってからグローバルに展開された。
この戦略は、海外在住者に的を絞ったチャットアプリのワッツアップや、サンフランシスコの繁華街に的を絞り、そこから一都市ずつ拡大していった配車アプリのウーバーが採用した戦略でもある。
対照的に、グーグルはジーメール(Gmail)のユーザー全員を対象にグーグルプラスを立ち上げ、何百万人ものユーザーを抱えているにもかかわらず、クリティカルマスに達しなかった。
アップルもアイチューンズ(iTunes)のユーザー全員を対象にアイチューンズ・ピンを立ち上げて同じ結果だった。つまり、利用者は取るに足らない数にとどまったのである。的を絞った市場投入戦略がなければ、巨大企業でも失敗する。