親と子が5年以上海外で暮らすなら、相続税や贈与税がかからない。そう聞いても、ほとんどのひとは「なんでそんなことをするのか?」と訝しく思うだろう。これは当然で、仮に1億円の相続財産があったとしても、相続税の基礎控除(5000万円+法定相続人×1000万円)や自宅評価の特例(一定の要件を満たせば240平米まで80%減額)などを考慮すると実際の納税額は微々たるものだ。また非居住者であっても、不動産など日本国内にある資産は相続(贈与)税の対象になる。相続税対策を考える頃には親はかなりの年齢になっているだろうから、節税のためだけにわざわざ5年も海外で暮らすのはほとんどのひとにとって非現実的なのだ。
しかし実際には、相続税対策で海外に居住するひとたちがいる。大手企業の創業者など超富裕層で、彼らは数百億円、数千億円の資産を持っているから非居住者による「節税効果」がきわめて高く、また金に糸目をつけなければどこの国でも快適に暮らすことができる。わずか5年の海外生活で税金が合法的にゼロになるなら、こんなおいしい話はないのだ。
こうした超富裕層の実態はこれまでほとんど明らかになってこなかったが、『納税通信』12年7月30日号の「相続特集」で何人かの実名が明かされた。
記事によると、光学レンズ大手「HOYA」の鈴木洋CEOは今年1月からシンガポールに仕事の拠点を移し、取締役会があるときだけ日本に帰国しているという。「進研ゼミ」で知られるベネッセホールディングスの福武總一郎会長はニュージーランドに移住していおり、サンスターの金田博夫会長もスイスに移り、現地法人の代表に就任しているという。