スラヴォイ・ジジェクが好んで使う「ポーランド人とユダヤ人」というエスニック・ジョークがある。
 

 ポーランド人はユダヤ人に金持ちになる秘訣を聞き出そうとする。
 ユダヤ人はもったいつけて、しかしいくらかの金を出せば教えないでもないと言い、ポーランド人はいくらかを支払う。
 ユダヤ人はうだうだ中身のないことを語りだしては途中で話を打切り、これ以上聞きたいなら更に払えと促す。
 ポーランド人はまた金を払い、ユダヤ人はまたうだうだ話して打切り、更に払えと……というのを繰り返す。
 とうとうポーランド人は怒り出し、お前の魂胆が分かった、うだうだ中身のない話をして俺から金を騙し取ろうというのだろうと、ユダヤ人を責め始める。
 ユダヤ人はうなずいて曰く、やれやれ、やっとわかったかね、金持ちになる秘訣がどんなものか。
 

 大きなお世話だが、自己啓発本や情報商材にうってつけの小話である。
 
 ポーランド人は、自分が知りたい〈秘訣〉なるものが、ユダヤ人の(これから話されることの)中にある、と思い込んでいる。
 しかしユダヤ人は〈秘訣〉については語らず、(中身のない話を)語るそのことによって〈秘訣〉を実践してみせる。

 ユダヤ人の語りが力を発揮するのは、ポーランド人が〈秘訣〉を知りたいと働きかけるからこそである。
 つまりユダヤ人の〈秘訣〉の力の源泉は、〈秘訣〉を知りたいというポーランド人の欲望にこそある。

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