《鶏胸肉の香糟風味炒め》。こちらは、薄切りの鶏胸肉に卵白、水を加えて片栗粉でまとめて衣を付けてから油通しする。
「衣は収縮しやすい肉類にあたる熱を和らげる緩衝材の役割もあります」と南さん。この衣付きの油通しの注意点は、油を入れる前に鍋を空焼きしておくこと。しっかり鍋を熱することにより、衣が鍋にくっつく失敗がなくなる。油の温度は130℃前後の中低温。レンコンの時と同様、たっぷりの油で約1分、衣付きの鶏を泳がせる。これぐらいの低温では、いわゆる揚げ物を作る時のジュワーッという油の音は全くなく、鍋の音は静か。表面がわずかに色付いたところで素早く鶏を鍋から引き上げる。後は仕上げに再度、香糟、塩、砂糖、鶏スープとともに、ほんの一瞬、サッと鶏を炒めて完成である。試食した森永シェフはたじたじとなった。「鶏のふっくら感が凄い。肉をこんな風に仕上げようと思うと、フレンチなら鶏は1羽まるごとの塊を、低温で長時間ローストするしかない。ところが油通しだと、こんなに小さな切り身の肉が、短時間でたまらなくふんわりと仕上がるなんて。凄いですね。驚きました」