あるフランス料理店で働いていたとき、その店にオーナーの孫にあたる15歳ほどの少年がいましてね。私は当時26歳ぐらいでしたが、彼と同じ下仕事を一緒にしていたんです。
そうするとその15歳の彼が、「金蔵、おまえはいまからなにをするんだ。」と聞くんです。言葉もろくにしゃべれない、26にもなった大人が異国の地で自分と同じ下仕事をして、この先どうするんだと心配してくれたんですね。
私といえば、フランスでは全てが新鮮でしたから、自分なりに新たな学びをたくさん吸収していたんです。15歳の彼と皿洗いをしていましたが、間近で興味のあるオードブルなどの調理作業を見ることができ、私としては願ったり叶ったりでした。学校で学んできたことを本場の現場で実際に「見る」ことができたのですから。
ただし、レシピなんかは見せてくれないですし、「これは」という料理に関しては教えてくれない。ですから、毎日どの素材をどうしているか、何グラムなのかをチラ見しながら、一行づつメモしていきました。まるでスパイのように(笑)。