デジタル技術の台頭を完全に見逃したという説だ。しかし、これは事実と一致しない。なぜなら、世界初のデジタルカメラの試作機を1975年に開発した人物は、コダックのエンジニア、スティーブ・サッソンだったからだ。この試作機の大きさはトースターに匹敵し、1枚撮るのに20秒もかかった。画質も粗く、写真を見るためには複雑な配線でテレビとつなげる必要もあった。とはいえ間違いなく、破壊的技術としての大きな可能性を秘めていた。
何かを発見することと、それを用いて何かを行うことは、まったくの別物である。そしてコダックは、みずから発明した技術に投資しなかった、というのが次なる説明だ。『ニューヨーク・タイムズ』紙でのサッソン本人の話によれば、開発したデジタルカメラについて経営陣から返ってきた言葉は、「面白い。でも誰にも口外するな」だったという。
なるほどと思えるセリフだが、この説も完全に正しいわけではない。むしろコダックはその後、さまざまな種類のデジタルカメラの開発に数十億ドルも投じてきたのだ。