1982年9月のある早朝、12歳のメアリー・ケラーマンの両親は、娘が床に倒れて死亡しているのを発見した。その数時間前、娘がかぜをひいたと言っていたので、「エクストラ・ストレングス・タイレノール」を1カプセル飲ませていた。
被害者はいずれもシアン化合物が混入されたタイレノールのカプセルを飲んでいた。死者は間もなく7人に達した。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応は、のちに経営学の授業で何度も取り上げられるようになった。ジョン・バーク会長は、ただちに戦略チームを結成したという。
「バークがチームに指示した戦略は、第一に『どうやって人々を守るか』、第二に『どうやって製品を救うか』だった」
順番に注目してほしい。経営陣は、薬局に出荷したあとのタイレノールに何が起きたとしても、自分たちには責任がないと言い訳はしなかった。
同社はただちに3,000万本のタイレノールを店頭から回収し、3重に密閉された不正開封防止ボトルの開発のために複数のチームを投入したのである。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、シアン化合物が混入したのは製品を薬局へ出荷したあとだったとは主張せず、被害者に補償金を支払い、カウンセリングを提供した。
1年後、タイレノールの売上は完全に回復していた。そして同社は社名を変更する必要すらなかった。