(米ガラス大手)コーニングのCEOウェンデル・ウィークスから聞いたスティーブ・ジョブズとの素晴らしいエピソードがある。
ある日、ジョブズから電話があった。彼らはiPhoneとiPadの開発中で、ガラスは壊れやすいので試作品にプラスチックのカバーを付けていた。ジョブズはこの試作品を持ち歩いていたが、鍵と一緒にポケットに入れていたため、カバーにすぐ傷が付いた。
彼は「携帯電話に傷を付けるわけにはいかない!」と激怒して、開発チームに「ガラスで作らなければだめだ。落としても割れない強いガラスが必要だ!」と言った。彼らはあらゆる落下テストを行ったが、ガラスは粉々になってしまった。
そこで(友人の)ジョン・シーリー・ブラウンがコーニングとウィークスの名前を出して、「彼らは特殊なガラス加工が得意だから、話をしてみたら」と言った。ジョブズはウィークスに電話して、「うちの携帯電話のガラス製カバーを作ってほしい。こちらの指示するやり方で!」と言った。
ウィークスはすぐにジョブズがかなり傲慢で、自分は何でも知っていると思い込んでいることに気付いた。(ジャーナリストの)ウォルター・アイザックソンがジョブズの伝記でこの話を取り上げているが、ウィークスが私に語った内容とは少し違う。
その本によれば、ウィークスは「君は自分が何を話しているのか分かっていない。科学のことを少し教えてやろう」と言ったというが、誰もジョブズにそんな口を利くはずがない。人心掌握術にたけたウィークスのような人間は特にそうだ。
本人の説明によれば、ウィークスは「そのようなガラスを作るために分子がどのように相互作用するか教えてくれ」というふうに言った。ジョブズは説明を始めて20秒ぐらいで、自分が何を言っているのか分からないことに気付いた。
そこでウィークスは丁重に「化学の仕組み」を説明しようと持ち掛け、「そっちの目標を教えてくれ!」と言った。「それを達成できるかもしれない3つの異なる方法を考えて、どんな特性があるのか説明するから、どれがうまくいきそうか言ってくれ。それで一緒に問題を解決できる」