テレビ局から横槍というか苦情が入って、六本木に呼びつけられてね。「ご苦労さん」とか言われて労ってもらえるのかと思ったら、局側のプロデューサーから「面白くない」って言われてね。「何とかしてくれないと困る」とか言ってきて。
そのとき、俺と富野氏と、あと一緒にプロデューサーが局に行っていたんだけど、この人がイエスマンで、局側からの文句に対して「ごもっとも」ですって言って。俺のほうを見ながら「できるな?」って言うわけですよ。こっちはトイレに行く時間も惜しんでやっているのに、その言い方はないだろうと思っていたから、「できません!」って局のプロデューサーの前で言ってやった。でも、その場で富野氏は、ほとんど無言ですよ。何も言わない。でも、帰ったら編集が終わってたフィルムをリールにかけて、またひとりで黙々と編集し直している。1回捨てた部分とか引っ張り出してね。ここまでやるのかと。俺なら「やめてやらぁ」ってその場で降りて、それで終わりだったと思うよ。でも、富野氏はやり続けてね。でも、その挙げ句、富野氏は2クールで監督から降ろされることになった。普通なら、少なくともそこで辞めるよね。「もういいや」って。
それでも『ライディーン』に関わるのを辞めないで、新しく監督になった長浜忠夫さんの下でヒラの演出として各話の演出をやっていて。本音じゃないと思うけど「いろいろ勉強になりました」って言うわけですよ。いまの神様のようになった富野氏から見たら信じられないけど。そんな中で、「これが世の中だよ、安彦ちゃん」って言われて。だからやっぱり苦労人なんですよ。すごいよね。そこから、いまのあのポジションまで行ったわけだからね。