塩基とは、生命をつかさどる言語だ。私たちの遺伝コードを構成する塩基はアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種。アルファベットの文字が一定の並び方をすると、意味を持つ言葉となるように、DNAに含まれる何十億もの塩基は人体の取扱説明書を紡いでいる。
「塩基編集」とはDNAを切らずに特定の塩基を編集し、遺伝的指令を変える技術だ。同病院のチームはこの技術を使って、アリッサさんのがん化したT細胞を特定して破壊することができる、新種のT細胞を作り出した。
まず、T細胞がアリッサさんの体を攻撃しないよう、人体への脅威となるものを標的とするT細胞の仕組みを無効にした
次に、すべてのT細胞に含まれる「CD7」と呼ばれるマーカー(特定のたんぱく質)を取り除いた
化学療法によって細胞が破壊されないようにした
編集の最終段階では、CD7マーカーを含むT細胞を特定し、がん性のものも含めて、アリッサさんの体内にあるすべてのT細胞を破壊するよう指示した。健康なT細胞からCD7を取り除いたのは、破壊する必要のないT細胞まで攻撃させないためだった。