藤井さんが渡辺明棋聖に挑戦して初タイトルを獲得した2020年の棋聖戦五番勝負である。
渡辺さんが敗戦の弁で語った「弱者の戦い方」という言葉に、私のみならず将棋界全体が衝撃を受けた。
2連敗してカド番に追い込まれた渡辺さんは、「ストレート負けだけは避けなければならない」と必勝を期して臨んだ第3局の作戦を振り返ってこう述べた。
「(第3局の対策は、)藤井君が負けた及び負けそうになった将棋を調べました。どういった展開になったときに形勢を損ねているのかを探ったのです。ある程度、相手の研究どおりに進んだ展開で苦戦していることが多いように感じました。しかも終盤で相手側が持ち時間を多く残しているのが、藤井君の負けパターンだと判断したのです。それって、本来は弱者の戦い方なんです。その場の思考では分が悪いから、事前に研究で固めていく。少なくともタイトル保持者側が積極的に行う手法ではありません」