アメリカの話をしましょう。住まないとその社会の底の部分の厚みが見えないというのでいちばんショックだったのは、子供が学校に行きだしてPTAの集まりに呼ばれて行ったときのこと。
当然、まわりはみんなアメリカ人ばかり。で、ここで何か歌いましょうとか言って親たちが歌いだすんですよ。みんながごく自然に歌い出す。要するに誰もが知っている歌なんですね。ところが、僕は聴いたこともない歌だった。
いちおう僕は音楽家で、西洋音楽で育ってきて、それなりに聴き込んできたたつもりだったなのに、まったく聞いたことがない歌を、普通のアメリカ人がそらで歌っている。何だろうな、日本で言うと『翼をください』とか、そういう感じかな。大人が口ずさむような、ちょっと前の歌なんだろうけど。けっこうショックでしたね。自分の知識の穴を発見した感じで。住んでみないと知らないことというのはある、と思いました。