菊池寛の初期代表作を収めた短編集 『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』 の文庫解説には「吉川英治」とクレジットがある。
「この集には、菊池寛の初期の作品中、歴史物の佳作が悉く収められている。これらの作品を見ても、菊池氏が、リベラリストとして、その創作によって封建思想の打破に努めていたことがハッキリするであろう」
「およそ大正から昭和の初めに当って、菊池氏の作品ほど、大衆の思想的、文化的啓蒙に貢献した作品は少ないと、いってもよい」
と、あの吉川英治が絶賛である。
この本の解説について寛は、
「自分が書く。解説文は第三者でなければならないのなら、吉川英治の名で出す。吉川君にはぼくから話しておく」と語ったという。
堂々と「解説」と銘打ち、しかも友人とはいえ同じ作家の名前を使うなど前代未聞、空前絶後だろう。