「情動(Affekt)」と「情熱(Leidenschaft)」との区別だろう。
ハイデガーはこれを「怒り」と「憎しみ」の例で説明している。
「怒り」は我を失って激高することがあるように、突発的で侵襲的な感情の働きに特徴がある。いわば、一種の制御不可能な「全存在の発作」とみなされる。
他方「憎しみ」は、突発的に顕在化することもあるにせよ、以前から心のうちのなかで醸成されていたからこそ生じる感情である。
ハイデガーによれば
「憤激した人は思慮を失うが、憎しみを抱く人は思慮と計画をめぐらし、ついには「煮詰めた」悪意にいたる。憎しみは盲目ではなく慧眼である一方、怒りはただ盲目である」。つまり、怒りは情動として突発的であるのに対して、憎しみは情熱として持続的で自覚的であり、冷静沈着ですらあるだろう。