自分の都合のいい時間に見る。
“タイムシフト”をして、初めてテレビが完成するのだというのが、昭夫の、そして、ソニーのコンセプトでした。大河ドラマは45分の番組でした。1時間以上の番組はあまりありませんでした。それで、ソニーは1時間録画できれば十分だという考えでスタートしました。
ビクターさんは、たぶんアメリカといろいろ話したのだろうと思います。アメリカ人はテレビをタイムシフトして見ようという人などほとんどいないので、ソフトウェアとして見るのがいいのではないかと言われたようです。映画を考えると、2時間必要になる。だから、カセットは大きいけれど、2時間にした。そこがベータマックスとVHSの最初に違ったところなのです。
画質のクオリティは、ソニーのほうがはるかに良かったのですが、いざやるとなったら、向こうは2時間、ソニーは1時間、それが勝敗の分かれ目で、残念ながら、世界ではソフトウェアを見る人のほうが多かったというわけです。
最後の瞬間は、松下さんがどっちに転ぶか、それで決まったみたいです。
ソニーはどっちかと言うと、クオリティでは絶対負けないという思いを持っていましたが、その時のお客様はソフトウェアが大事なのだと考えていました。クオリティがちょっと低くても、ソフトでちゃんと満足できたほうがいいのだと。
われわれは、エンジニアとして、クオリティばかりこだわっていましたが、お客様の側から見たら、そこが一番ではないかもしれない。やはりお客様が何を欲しいのかということをきちんと考える必要があり、商品がいいだけではものは売れないということは、ものすごい教訓になりました。