原子の中心にある正の電荷をもつ粒子は陽子と呼ばれる。あまり指摘されることはないが、陽子は部分的に反物質であることが知られている。
学校では、陽子はクォークと呼ばれる3つの素粒子でできていると習う。そのうちのふたつが「アップ」クォーク、ひとつが「ダウン」クォークで、それらの電荷(2個のプラス3分の2と、1個のマイナス3分の1)が組み合わさって、陽子にプラス1の電荷を授けている。しかしこの単純な図式の裏には、とても奇妙で、いまだ完全には解明されていない真実が潜んでいるようだ。
実際には、陽子の内部では数が変動する6種類のクォーク、それらと反対の電荷を担う反物質(反クォーク)、さらには「グルーオン」と呼ばれる粒子が渦巻いている。グルーオンには、ほかの粒子を結びつけ、グルーオンに変形させ、数を難なく増やす性質がある。ところがどういうわけか、あまたの粒子からなるこの大渦は完全に安定していて、表面的にはあたかもそこに3つのクォークだけが並んでいるだけのとても単純な形に見えるのだ。
「なぜそれが可能なのか、ぶっちゃけ、奇跡のような話」
理論上は異なるタイプの反物質が均等に分布していると考えられたが、実際には反ダウンクォークの数が反アップクォークの数を大きく上回っていたのだ。1つの反アップクォークにつき平均して1.4個の反ダウンクォークがある事実を突き止めた。